COMNEXT(コムネクスト)次世代 通信技術&ソリューション展
2024/6/26(水)-28(金)
東京ビッグサイト 南展示棟

 ソフトバンク株式会社および子会社であるHAPSモバイル株式会社は、安定した通信エリアと品質の高い通信ネットワークの実現に向けて、さまざまな研究開発を進めている。その中心となるのが成層圏から通信ネットワークを提供するプラットフォーム「HAPS(High Altitude Platform Station)」。HAPSとは、成層圏に飛行させた航空機などの無人機体を通信基地局のように運用し、広域のエリアに通信サービスを提供できるシステムを指す。HAPSの活用によって、山岳部や離島、発展途上国など、インターネットを利用できない地域でも安定したインターネット接続環境を構築できる。ソフトバンク株式会社 プロダクト技術本部 グローバル通信事業統括部 プロダクト技術本部 グローバル通信事業統括部 統括部長代行 上村征幸氏に聞いた(聞き手:今崎人実)


HAPSの開発経緯について教えてください

【写真】全長78mのHAPS無人航空機「Sunglider(サングライダー)」

当社はインターネットが利用できない人々が世界中に約27億人存在しているということに、問題を感じておりました。インターネットを世界中に提供できるような世界を実現するためにはHAPSが最適であると強く思い、開発に取り組むことになったというわけです。ソフトバンクのDNAでもあるのですが、技術革新やナンバーワンへの挑戦という意味合いでも、HAPSを開発しようという空気が生まれました。

2017年以前からHAPSのアイデアベースはありましたが、実際に機体の開発に取り組んだのは、2018年の6月からです。2019年の9月には無人航空機「Sunglider(サングライダー)」初のテストフライトに成功し、翌年2020年の9月には成層圏でのテストフライトを成功させ、自律型航空式のHAPSにより成層圏からLTEの通信に世界で初めて成功しました。当社によるHAPS開発のポイントは、他のHAPS機体メーカーより大型である点です。大型のHAPSは小型のHAPSよりも大きい容量の通信器機(ペイロード)を乗せることができるので、大容量で安定した通信を提供できます。そのため、大型HAPSの開発は、当社にとっても非常に挑戦的なことだと思っています。


HAPSを利用するメリットについて教えてください

【写真】成層圏を飛行する「Sunglider」

HAPSは成層圏を飛行して運用します。天候や気流が安定している成層圏の特長を生かし、半年間安定して飛行することが可能です。また、地上基地局におけるカバレッジの平均が約直径20kmに対して、当社が開発した無人航空機の通信のカバー範囲は、直径約200kmです。地上に基地局をいくつも立てるより、HAPS一機で広範囲に通信のエリアを構築できるため、コストも削減できます。例えば、基地局を設置するのが難しい山奥や離島などでも、HAPSがあれば通信の利用が可能です。その他のメリットは、基地局が上空にあるため、災害の影響を受けづらいこと。今後は、空の3D(三次元)カバレッジで、ドローンに電波の提供ができるのではないかと考えています。


HAPSと衛星通信の違いは何でしょうか?

空からの通信にはHAPSと衛星通信があります。衛星通信とは、通常の衛星通信よりも低い上空を飛ぶ衛星と通信を行うことで、高速通信を可能にするものです。例えば低軌道衛星サービスは約500kmから1200kmの範囲に配置されている一方で、HAPSは上空約20kmの成層圏から電波を送るため、より高速かつ低遅延を実現することが可能です。お客様に衛星・HAPS・地上を意識せずに提供できるようなサービスです。お客様のニーズやさまざまな用途に沿った形で、お客様が衛星・HAPS・地上を意識することがなく、安定した通信サービスを提供したいと考えています。


今後の展望について教えてください

現在HAPSの商用化に向けて、通信機器・機体・バッテリー・モーターといった要素技術について研究開発を進めております。それらを作り上げた上で最終的に機体に乗せて、その後に上空からの基地局の実現を考えています。技術的な問題だけではなくHAPSに関する制度的な問題もあるため、整理が必要です。制度の問題点は2つあります。1つ目は機体認証や空を飛ばす上でのルール化など航空制度に関するものです。2つ目は、周波数の問題です。HAPSに使える周波数は限定されていますが、実際に世界中で使われている携帯電話向けの周波数は複数あります。そのため、そちらも対応できるような制度を考えていかないといけないと思っています。こうした課題を解決するため、当社は「HAPSアライアンス」を創設しました。総務省の国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)やノキア、エリクソン、ドイツテレコム、NTTドコモ、KDDIなど同業者にも加盟していただき、仕組み作りや規制の課題などを、共有しながら対応していくような基盤作りを進めています。


ソフトバンクでのHAPSの位置づけを教えてください

エリアを拡大していくという点で、HAPSは当社の中でも非常に重要な位置づけで、デジタルデバイド(情報格差)対応の観点からも非常に重要といえます。HAPSによって、従来はつながらなかったところに今後つながることによって「人と人とのコミュニケーション」だけではなく、「モノとモノとの通信」など新しい産業にも寄与できるのではないかと思っています。


展示会への出展にあたり、期待することはどんなことでしょうか?

【写真】Photo credit: NASA/Carla Thomas

展示会ではHAPSの模型や成層圏での通信試験に成功した通信機器(ペイロード)が展示され、実際にHAPSを体感していただくことが可能です。

多くの方に当社が取り組んでいるHAPSを見ていただき、率直な感想をいただけたら嬉しいと思います。他のイベントでもHAPSに詳しい方の声を聞くことができましたので、そういった声が聞けることも期待しています。また、海外展開における海外パートナー、国内のパートナーにも出会えたら嬉しいと思っております。