COMNEXT(コムネクスト)次世代 通信技術&ソリューション展
2025/7/30(水)-8/1(金)
東京ビッグサイト 南展示棟

これからの日本のデータセンターのゆくえ|監修:東京理科大学大学院教授 若林秀樹氏

現在、日本はヒト・社会インフラ・企業・制度の老齢化が深刻です。そうした日本の現状を変える手段が様々なデジタル技術にあります。カーボンニュートラルや国家安全保障、サプライチェーン改革の中で、ポスト5Gや自動運転の活用、社会インフラの強化によって、地方を活性化できます。中でもその中核を担うのがデータセンターです。データセンターとは、サーバーやネットワーク機器設置を備えた施設であり、一般ユーザーのスマホやPCだけではなく、企業や大学や公共等でのデータ処理を担います。周辺には電力線などのインフラも必要です。日本がデジタル活用によって課題先進国を脱し、再成長するための最重要なインフラだといえるでしょう。しかし、現状のデータセンターは膨大な電力消費や老朽化など様々な問題を抱えている上、東京と大阪に集中しています。また、西側諸国は米中摩擦の関係で中国や台湾などには設置できず、日本にデータセンターを置こうという動きも起こっています。このような流れの中で、こうした問題をどう解決すべきなのか。そのヒントを、本展併催セミナー「環太平洋と日本列島のデジタルインフラを担うデータセンター(DC)の最新動向とビジネスモデル」でモデレーターを務める東京理科大学大学院教授 若林秀樹氏の著書『デジタル列島進化論』をはじめとする書籍や総務省資料などからひも解いていきます。

(監修:東京理科大学大学院教授 若林秀樹/文:今崎人実)


データセンターとはサーバーやネットワーク機器設置に特化した建物

【画像引用】経済産業省・総務省「デジタルインフラ(DC等)整備に関する有識者会合
中間とりまとめ(概要)/デジタル田園都市国家構想実現におけるデジタルインフラの強化」

データセンターとは、サーバーやネットワーク等のインフラ機器を設置・運営・保管することに特化した施設であり、データの蓄積・処理を担います。コンピューターを365日、24時間稼働させる必要があるため、以下の設備が必要とされてます。

・数多い数百から1000以上のラックを格納するサーバールーム

・受電設備と変電設備

・電源ルーム

・冷却用の空調設備

・ネットワーク設備

・エネルギー地産地消の観点から再生可能エネルギーがある

1960年代以降、金融機関等が電算機センターを建設したことを始めとし、1990年代以降は通信キャリアがデータセンターを都心に設置しました。しかしデジタル化の進化に伴い、自社利用に使う企業だけではなく、政府機関や企業、交通、医療、教育などの情報もデータセンターに格納され、計算されるようになり、データセンターは公共インフラとしての役目を果たすようになったのです。
今後、データセンターはますます発展を遂げる必要があります。というのも、自動運転やスマート工場、遠隔医療など、新たなサービスやプロダクトが始まるからです。そこでは、集中型ではなく、遅延があってはならず、電力消費の観点から、エッジ型、分散にして、かつエネルギー、情報データ、そして雇用の地産地消が必要です。政府は、 「デジタルインフラ(DC 等)整備に関する有識者会合 中間とりまとめ 2.0」で、東京大阪に続く、北海道や九州を第3,4の拠点にする方向性ですが、さらに、乗数効果や雇用創出効果もありデータセンターは、都道府県毎や更に全国主要都市に設置する必要があるでしょう。データセンターは民間の営利目的だけではなく、国民にとって必要不可欠なインフラであり、今後、データセンター設置を通じて、地域格差をなくし、人口減少社会を食い止めることが重要と考えられているからです。

参照:若林秀樹(2022)・「デジタル列島進化論」・日経BP総合研究所


地方にとって不可欠なインフラであるデータセンター

現在、日本には円安・インフレ・環境問題・労働問題・対中政策・東西対立など1970年代当時と類似した課題があります。52年前、田中角栄氏は著書『日本列島改造論』の中で、過度な都市集中、公害問題に対し、新幹線、高速道路、交通網による地方分散を提案しました。しかし現状では、過疎化の問題が未解決であるだけではなく、少子高齢化や日本の競争力低下といった問題も浮上しているのです。
若林教授は、これらの問題をデータセンター、基地局、光電融合、半導体によって日本を改造することを提案しています。少子高齢化によって人手不足に苦しむ地方こそ、スマート工場やドローンを使った農業の自動化、自動運転、遠隔医療、遠隔教育を進める必要があるためです。
また従来の交通網以上にネットワークの重要性が高まり、データセンターはアジアの拠点としても重要とみなされています。東アジア有事の中では、中国や台湾、朝鮮半島にデータセンターを設置することはリスクがあるでしょう。そのため、GAFAM等西側諸国からも日本は注目されています。

参照:若林秀樹(2022)・「デジタル列島進化論」・日経BP総合研究所

【画像引用】経済産業省・総務省「デジタルインフラ(DC等)整備に関する有識者会合
中間とりまとめ(概要)/ APACの主なクラウドデータセンター立地状況(2021年予測) 」


データセンターの課題とは?

現在のデータセンターは、東京一極集中のため以下のような3つの課題があります。

①災害時のレジリエンス(強じん性)

②非効率な再生エネルギーの利用

③非効率な通信ネットワーク

 

①災害時のレジリエンス
データセンターが東京一極集中の場合、地震など自然災害時や国家安全保障の問題があった時に対応することは困難です。日本全体の通信が不通となり、行政や金融、医療、交通など重要インフラも機能しなくなるリスクがあります。レジリエンスのため、データセンターの地方分散を図らなくてはなりません。

②非効率な再生エネルギーの利用
経済産業省の「第2回 GX実現に向けた専門家ワーキンググループ 議事録」によると、電力消費が膨大なデータセンターはAIやIoTの利用によって、エネルギー需要が急増しています。たとえばChatGPTなどLLM(大規模言語モデル)では、チップが溶けてしまうほどの熱を発すると言われています。データセンターの増加が見込まれる中、地方の再生エネルギーの活用とエネルギーの効率的な利用は必要不可欠です。そうした利用を進めた結果、カーボンニュートラルを目指すことも可能になるはずです。

【画像引用】経済産業省・総務省「デジタルインフラ(DC等)整備に関する有識者会合
中間とりまとめ(概要)/デジタル社会実現におけるデータセンターの位置づけ」

③非効率な通信ネットワーク
地方から生じるデータは東京・大阪のデータセンターを経由し、地方に戻るため、無駄なコストとエネルギー消費が発生します。
経済産業省・総務省が発表した「デジタルインフラ(DC等)整備に関する有識者会合中間とりまとめ(概要)」 では、自動運転等の実装では、自動車1台につき1日で映画1000本分ものデータを収集し、データ処理に数十万台ものPCが必要であると報告されました。
こうした課題を解決するために、データセンターの分散を図る必要があります。

参照:若林秀樹(2022)・「デジタル列島進化論」・日経BP総合研究所


「IOWN」技術によるグリーン・データセンターの設置

経済産業省は「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を公表しています。資料の中で経済産業省は、カーボンニュートラル実現のためには、データセンターのグリーン化が重要であるとしています。グリーン化とは、低炭素、CO2を排出しない環境配慮型の製品・サービス、環境に配慮した事業活動のことです。データセンターは、大量のメモリ・半導体を使い、膨大な電力消費が課題となっています。たとえば、大規模データセンターは大型火力1基(100万kw)の電力消費があるほどです。2030年までに全ての新設データセンターの30%省エネ化、データセンター使用電力の一部再エネ化を目指さなくてはなりません。またエッジコンピューティング(デバイスそのものや、その近くに設置されたサーバでデータ処理・分析を行うこと)により、ネットワークやデータセンターの負荷低減と情報通信インフラの30%以上の省エネ化も必要です。

【画像引用】経済産業省「『次世代デジタルインフラの構築』に関する国内外の動向 次世代グリーンデータセンター技術開発(全体像)」

グリーン・データセンターのキーとなるのはNTTが進めている『IOWN(アイオン=イノベーティブ・オプティカル・アンド・ワイヤレス・ネットワーク)』です。『IOWN』は、電力消費が少ない光電融合技術を活用し、エネルギーと地産解消を実現することができます。
また、経済産業省の「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略 半導体・情報通信産業の成長戦略『工程表』」によると、国内グリーン・データセンター拡大のため、国は以下のようにデータセンターの国内立地を推進しています。

・データセンターの省CO2化促進

・ゼロエミッション・データセンターの先行事例創出

・需要家ニーズの醸成

・インターネットトラヒックの地域分散化

参照:若林秀樹(2022)・「デジタル列島進化論」・日経BP総合研究所


データセンターを地方に設置することが日本再生のカギに

経済産業省の「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」によると、2019年1.5兆円の国内データーセンター市場は2030年には3.3兆円になり、世界的にグリーン・データセンターの市場が拡大していくと予測されます。プラットフォーム企業は、全データセンターで消費する電力相当の再生エネルギーを購入、中国も2030年にデータセンター投資が10兆円規模になると言われています。
現在、国は以下を目標にデータセンター設置を進めています。

・2025年の大阪万博

・2030年には6Gの実用化と自動運転のレベル5の実現

データセンター設置に関しては10の自治体がデータセンター事業実施可能性調査採択自治体に選ばれました。
滋賀県甲賀市「データセンター事業実施可能性調査業務委託 説明資料」によると、データセンターの立地条件は電力・情報ネットワーク・距離・低自然災害リスク・拡張性・冷涼性などです。データセンターの立地戦略として、郊外型(近距離)のデータセンター拠点を目指し、全体の40%以上を占める老朽化したデータセンターの建て替え需要が期待できるそうです。将来的にはエッジデータセンター(近距離で稼働する小規模のデータセンター)の立地誘導にもつなげることで、雇用の業種転換を進めることができると同市は説明資料で謳っています。
データセンターと5G基地局の設置により、地域は都心と同様な環境で仕事ができるようになります。
総務省は、2023年に「デジタルインフラ(DC 等)整備に関する有識者会合 中間とりまとめ 2.0」を公表しました。東京圏・大阪圏を補完・代替する第三、第四の中核拠点として、北海道や九州エリアの整備を促進し、以下のように地域データセンターの整備についても提言しています。

・データセンターを地方の適地に分散立地

・データ発生場所の近隣にエッジコンピューティングを配置

・光電融合技術の活用によるデータやエネルギーの「地産解消」の事業モデルの実現など

参照:若林秀樹(2022)・「デジタル列島進化論」・日経BP総合研究所


地方にデータセンターを設置する場合のモデルケース

【画像引用】経済産業省「北海道のデジタル産業の展開に向けて」

『月刊ニューメディア2023年9月号』の特集「『北海道データセンタ公社』構想を提案 『課題先進国』を脱する最重要インフラ」では、データセンターの大規模拠点として北海道をモデルケースとした検証について言及されています。
北海道は有力製造業や巨大企業が集まっている場所であり、産業集積が乏しく電力コストは安くはありません。しかし、用地の広さ、水資源、交通の便に加え、データセンターのサーバー向けプロセッサもあります。また、欧米と近く、中国からは遠いというメリットもあります。
例えば、交通・電力・通信企業等が地域限定のデータセンター公社を創設するモデルケースを考えてみます。
まず、老朽化した庁舎・病院・銀行・工場の本社等を建て替える際に、データセンターを設置することが可能です。自家発電設備を有し、スマート工場等の社内ニーズがある巨大企業や製造業のIT部門を独立させます。次に系列企業や道内の中小企業に展開し、スマート農業も実施します。
さらに、低軌道衛星(LEO)コンステレーションやローカル5Gなども取り入れることで、自動運転やメタバース、医療へと展開することが可能です。医療においては、住民のデータやカルテを共有することで、利用料の削減もできます。
こういったモデルケースを通じ、ケーススタディを行い、ノウハウの蓄積によって他地域にも展開することが出来るかもしれません。
データセンターは、デジタル社会における心臓部です。データセンターの国内立地を推進し、通信インフラで連結され、エッジ処理が進んだ社会が今後求められます。ひいては、データ通信の低遅延化が実現し、自動運転や遠隔医療、スマート工場など、データ利用による新たなサービス展開も促進できます。また、データの国内集約・蓄積によって、経済安全保障にも寄与するでしょう。

参照:「日本の半導体産業成功への道 2030年に15兆円規模へ成長(特集 走れRapidus 半導体にっぽん復活論)」『月刊ニューメディア2023年9月号』, 2023-8-1 p.30-32