移動通信の6Gを支える技術とそれが築く未来とは|三菱電機 山中宏治氏
2030年頃、携帯電話やモバイルWi-Fiといった移動通信体のネットワークは新たな世代「6G」へと移行する予定だ。これまでの端末によるコミュニケーションだけでなく、モノのインターネット「IoT」によりさまざまなデバイスがネットワークとつながる、超高速通信によりリアリティーの高いユーザーエクスペリエンスにつなげられる、といった特徴が挙げられる。
こうした6Gを支える通信技術を有するのが、三菱電機だ。COMNEXTで「5G/6G移動通信基地局向け高周波電力増幅器技術」と題した講演を行う同社情報技術総合研究所 マイクロ波技術部の山中宏治部長に、6Gの通信とはどのようなものなのか、6Gによって描いている未来像を聞いた。(聞き手:藤麻迪)
6Gの移動通信網の周波数とは
これまでの移動通信は、1G、2G、3G、4G、そして現在の5Gへ進化してきました。そして2030年頃からは、ビヨンド5G/6Gが始まる予定です。
三菱電機は、これまでの移動通信をさまざまな側面から支えてきました。私たちが開発してきた基地局、あるいは、基地局における増幅器といったデバイスは、無線通信ネットワークを支える技術の一つです。
もちろん、これからの6G時代も、同様に取り組みを進めていきます。とりわけ、世界的に未使用の周波数である7GHz帯が6Gで利用される見込みです。後ほど詳述しますが、三菱電機はこの7GHz帯基地局向けの増幅器を世界で初めてつくりました。
8月1日(金)のセミナー「5G/6G移動通信基地局向け高周波電力増幅器技術」でも、これらの詳細をお話します。※講演は終了しました
三菱電機が6Gでつくりたい世界
私たちは、ただ基地局のデバイスをつくりたいわけではありません。
三菱電機は、通信以外のインフラも構築していますし、製造業のファクトリーオートメーションシステムなどもつくっています。また、家電の事業もあれば、半導体関連の事業もあります。
こうした事業環境を考えた際、私たちは6G通信の上流と下流からビジネスを進めていきたいと考えています。
上流は、優れた基地局のデバイスをつくり、安定した通信を提供していくこと。下流は、製造業の生産環境や家電の利用、あるいは、その他のインフラを6Gによって強化していきたいというのが、私たちの考えです。
しかし、私たちが事業を進めるだけで、6Gによる豊かな社会が実現するとは考えていません。
たとえば、ネットワークの側面で6Gの強みが生かされるためには、クラウドやセキュリティといったプラットフォームがさらに進化していく必要があります。また、それ以外にも斬新なICTプラットフォームが今後、登場するでしょうし、近年のAIの隆盛でいえばデータセンターの拡充が不可欠です。さらに、三菱電機のお客様に当たる産業界の皆様が、6Gを活用いただきビジネスでさらに成功していただくことが、私たちの次なる成功にもつながります。
このように、6Gが社会に役立つものとするためには、パートナーやお客様の存在が不可欠なのです。こうしたパートナーづくりを行っていきたいと、三菱電機は考えています。
6Gは今までと比べて何が進化する?
6Gになると、移動通信がどのように進化するかを知るには、まずこれまでの1G〜5Gまでの各世代を振り返ることで、より理解が深まるかもしれません。
移動通信は1世代が約10年であり、世代が進むと通信速度が10倍になるという傾向があります。明文的に「10年・10倍」が目標などとなっているわけではありませんが、3GPPが次世代システムの要件を定義しており、これまで同様の傾向が続いてきました。
上に示した図をご覧ください。今から1つ前の世代である4Gは、おおむね2010年代から利用され、通信速度は下りで最大1Gbpsでした。そして5Gは、通信速度は下りで最大10Gbps。つまり4Gの10倍です。また、5Gが日本で始まったのは2020年であり、6Gが始まるのは2030年頃の予定ですから、やはり2020年代の10年間が、5Gの時代となります。
このように、1世代が10年、世代が移ると10倍の通信速度になると、ご理解いただけたと思います。6Gも、通信速度も下りで最大100Gbpsと、現在の10倍となると考えられています。
では次に、こうしてスペックが上がっていくと何が変わるのか、同様にこれまでの移動通信の歴史を見てみましょう。
同じく上の図で、一番左下にある1Gや2Gの時代は、音声通信だけの時代です。それが、3Gでは通信速度が上がり、さらにカメラが端末に付いたことで、画像のやり取りなども行われるようになりました。
そして4Gでは動画も観られるようになり、5Gでは動画を観るとき途切れることが4Gより格段に少なくなる、より高精細な動画のストリーミング視聴が可能になる、といった通信環境となっています。
6Gでさらに通信速度が上がることで、メタバースのような現実世界と仮想世界の融合のようなことが可能になると、想定されています。
通信速度に寄与する「高周波」「ミリ波」とは
このように通信速度を上げ、移動通信の利便性も高めていくためには、周波数帯を上げていくというのが一つの方法となります。
たとえば、4Gではおおむね3GHzまでの周波数帯が使われていました。そして、現行の5Gでは「Sub6」と呼ばれる3.7GHz帯や4.5GHz帯、さらに高い30GHz付近の周波数帯が利用されています。
つまり、世代が進むにつれて「高周波」帯が利用されるようになったということです。そして、この30GHzより高い周波数が「ミリ波」と呼ばれています。ミリ波は6Gよりも前、5G普及の時期から注目され、実際に導入も始まりました。
しかし、現実には十分に普及しているとは言えません。
総務省のデータによると、全移動通信のうちミリ波のトラフィックは1%未満です。
その大きな理由は、現状ではミリ波が使える場所が非常に限られている点が挙げられます。使える端末も限られており、たとえば日本で販売されているiPhoneはミリ波に対応していません。
iPhoneに関しては、海外の端末はミリ波対応しているものの、実際にはこの周波数帯があまり使われていないという現実は日本と同じです。端末が対応できていてもミリ波を利用できる機会が少ないのが、この背景にあります。
高周波、7GHz帯に関する山中氏の講演の内容は?
では、高周波、そしてミリ波はこの先、使われなくなるのでしょうか。
結論からいうと、そうではないと考えています。まず、先ほどから取り上げているように、時代が進むにつれて速いデータ通信速度、あるいは、大容量のデータ通信が要求されるようになっています。高速、大容量のデータ通信が求められる以上、高い周波数の利用に移っていくのが自然であるのが、理由の一つです。
また、近年の動向としてAIの隆盛も、ミリ波の利用につながっていきそうです。AIは画像や動画を含めたさまざまなデータのやり取りをするので、移動通信においてはやはりミリ波の利用が必要になってくるでしょう。
とはいえ、ミリ波の利用環境の整備が進んでいないのは事実です。そのため、ミリ波の利用が普及するにはもう少し時間がかかると考えています。
そこでビヨンド5G/6Gにおいて、今まで使われていなかった高周波帯として、7GHz帯を利用する方向で進んでいます。これは、2023年に開催されたWorld Radiocommunication Conference 2023(世界無線通信会議。WRC-23)で合意があったものです。
8月1日の講演でも、この点での三菱電機の取り組みをお話したいと考えています。
その目玉となるのが6月に発表した「5G-Advanced基地局用GaN増幅器モジュール」です。5Gから6Gへの移行期に使われる増幅器で、またGaNを使った7GHz帯基地局デバイスとして、世界初のものとなります。
GaNとは、窒化ガリウムのことです。2014年に赤崎勇博士ら3人がノーベル物理学賞を受賞した青色発光ダイオード(LED)、さらに白色LEDの研究開発で、青や白に発光させているのが、GaNなのです。
日本で開発された材料として非常に有望なGaNですが、発光以外にも活用されているアプリケーションがあります。その一つは、電力などの制御に使う半導体パワーデバイスです。
そして、もう一つが移動通信の基地局で使われる高周波デバイス。実のところ、実用化の点では、半導体パワーデバイスより高周波デバイスの方が先行しました。なぜGaNを使うのかというと、高電圧でも動作できるからです。最大で100Vほどの電圧でも動作します。こうした性質が、大出力が必要な基地局で利用するのに向いています。
講演では、より詳細なGaN増幅器について、またここではお話しきれなかったビヨンド5G/6Gや基地局の技術についてお話するので、ぜひお越しください。
◆セミナー情報◆ ※講演は終了しました
<5G-5>2025年08月01日(金)|10:30 ~11:15
講演テーマ:5G/6G移動通信基地局向け高周波電力増幅器技術
三菱電機 (株)情報技術総合研究所 マイクロ波技術部 部長 山中 宏治
COMNEXTに期待する「さまざまな分野の方との出会い」
冒頭でも述べた通り、私たちだけではビヨンド5G/6Gが社会で有用なものにしていくことはできません。さまざまな分野の方々の力が合わさって、その真価が発揮できるものです。
そのため、講演にも通信分野の方だけでなく、ビヨンド5G/6Gに関心を持たれる多くの方にお越しいただきたいと思っています。講演以外でも、そうした方々と出会う機会があればと考えています。
以上が、COMNEXTに期待していることです。
そこで、もう少し6Gのユースケースについて、最後にお話できればと思います。冒頭では、プラットフォームが必要と述べましたが、より詳細な使われ方を紹介します。
6Gの効果で幅広い方に実感いただけそうなのが、オンライン会議です。今は遅延があったり映像があまり綺麗ではなかったりして、リアリティーに乏しいのが現実です。しかし、6Gによりすぐ近くで話しているような臨場感が生まれるでしょう。
また、海外旅行へ行きたいけれども年齢や体調の面で不安を感じる方がいます。そうした方に「テレツーリング」という形で、自宅にいながら海外旅行の体験ができる方法が想定されています。
一方、最近ではオンライン診療が普及し始めました。しかし、お医者さんの立場からすると、肌の色艶や表情などといった患者さんの微妙な変化が、オンライン診療だと見分けにくいそうです。こうしたデメリットの改善が、6Gで期待できます。
このように、6Gの超高速の通信は、さまざまな場面に好影響をもたらします。繰り返しになりますが、講演にはぜひお越しいただきたいですし、三菱電機のブースにも足をお運びいただければと思います。
COMNEXT(コムネクスト)とは
COMNEXT(コムネクスト)とは、光通信技術、高周波技術、ネットワーク設備・配線施工、ローカル5Gなどの次世代通信技術・ソリューションに特化した専門展示会です。最新技術の実機デモや製品が多数展示され、世界中から情報を求める来場者が集まる国際商談展です。
併催セミナーでは業界のキーマンによる講演を多数開催します。(2025年は55本の講演を実施)業界の最新動向や研究開発の現状、各社の取組み事例を紹介しています。
展示会名
COMNEXT 第4回[次世代]通信技術&ソリューション展
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