IOWNの通信環境を実現するオールフォトニクス・ネットワーク|NTT 高杉耕一氏
消費電力を大きく削減し、低遅延、大容量のデータのやり取りが可能となる「IOWN」。厳密には、NTTが提唱する構想であり、従来よりも格段に速い通信や各種先進技術を活用できる環境を目指すものだ。
IOWNは豊かな社会像を掲げるだけでなく、技術的な裏付けがあって進められている。具体的には、オールフォトニクス・ネットワーク(APN)、デジタルツインコンピューティング、コグニティブ・ファウンデーションの3つで構成される。
NTT(株)未来ねっと研究所 フロンティアコミュニケーション研究部 部長・主席研究員の高杉耕一氏に、IOWNとその中核的技術であるAPNについて、聞く。(聞き手:藤麻迪)
NTTの提唱する「IOWN」とそれを支える3つの技術的基盤
「IOWN」という言葉を、新聞などでご覧に、お聞きになったことがある方もいるのではないでしょうか。しかしIOWNをご存じでも、NTTが発信している言葉、NTTが言っていることだから何となく通信と関係がありそう、といったイメージで、具体像まではよく分からないという方もいらっしゃるかもしれません。
IOWNとは、Innovative Optical & Wireless Networkの略で、最先端の光技術を使い、便利、豊かな社会をつくっていくとの構想です。この後、さまざまな具体例を紹介しますが、一例を挙げると、ZoomやTeamsなどのオンライン会議で遅延がほとんど生じず今までよりもリアリティのあるコミュニケーションが可能になる、といった通信面でのメリットが分かりやすいものとなりそうです。
2030年頃が、IOWNが社会に広がり活用される時期と想定しています。もっとも通信や生成AIなどで、すでに部分的な活用も始まっています。
こうしたIOWNを支えるのが、APN、デジタルツインコンピューティング、コグニティブ・ファウンデーションの3つ。
このうち、デジタルツインというと工場・倉庫や道路などのインフラを仮想空間上に複製することを思い浮かべる方もいるでしょう。IOWNのデジタルツインコンピューティングは、さらに光技術という物理現象やネットワークをデジタル上でシミュレーションすることも可能にするものです。
光による通信というのは、物理現象です。光と一言でいってもさまざまな波長のものがあり、ネットワークでどのように進むかはそれぞれで異なります。
しかし、それらの物理現象を一つずつ検証していくと、非常に長い時間がかかってしまいネットワークサービスの提供を迅速におこなうことができません。そこで、デジタルツインコンピューティングで光やネットワークの動きをシミュレーションするのです。
また、コグニティブ・ファウンデーションはネットワークやコンピューティングといったリソースの最適化を指します。たとえば、コグニティブ・ファウンデーションを行うことで、消費電力を必要最小限に抑えられるなどの実益があります。
COMNEXTにおいて、7月31日に「IOWN におけるAll Photonics Network の最新研究開発動向」と題した講演を行う予定です。1人でも多くの方にお越しいただくため、ここでもAPNとIOWNについて説明いたします。
◆セミナー情報◆ ※講演は終了しました
<FOE-7>2025年07月31日(木)|15:45 ~16:30
講演テーマ:IOWN におけるAll Photonics Network の最新研究開発動向
NTT(株)未来ねっと研究所 フロンティアコミュニケーション研究部 部長・主席研究員 高杉 耕一
IOWNの中核となる技術「オールフォトニクス・ネットワーク」
APNは、パソコンやスマートフォンといった端末、モノのインターネット(IoT)でネットワークとつながるデバイス、さらにネットワークそれ自体も含め、あらゆる場所に光技術を取り入れたネットワークです。
IOWNは光の技術を極限まで使い、どのような伝送量、情報の種類でも低消費電力かつ「テクノロジーを意識しなくてもよい」ほどの高品質な通信環境を提供するものです。そのため、APNはIOWNの中核的な位置付けとなる技術だと考えています。
なお、「テクノロジーを意識しなくてもよい」というのは、NTTがIOWNを説明する際、よく使う言葉です。具体的には、低消費電力でスマートフォンを使うときに充電を「意識しなくてよい」、映画のような長時間の動画やゲームなどのダウンロード・アップロードをほとんど「意識しない」ほど一瞬で終わる、といった利用環境を想定しています。
同じ光の通信である光ファイバーとAPNとの違いは?
光というと、多くの方々に馴染み深いのが、光ファイバーだと思います。家のインターネット回線や電話回線は光だという方々は多くいらっしゃるでしょうから、現実的に光による通信を実感できるものといえるでしょう。
光ファイバーは固定された拠点間を結ぶものです。たとえば、読者の皆様がNTTの光回線を利用している場合、ご自宅とNTTの電話局という2つの固定された拠点間をつなぐものが、光ファイバーによる通信となります。
一方、APNはどこか特定の拠点での通信を想定したものではなく、「オールフォトニクス・ネットワーク」の言葉通り、あらゆる場所に光技術を活用し通信するものです。また時間も、任意の、使いたい時間帯に利用できます。
と言っても、この説明だけではイメージが湧かないかもしれません。そこで、今、話題のAIデータセンターを例に、APNがどのように利用できるものなのか、見てみましょう。
私がAPNを介して生成AIに複雑な問題を解いてほしいと要求し、さらに大容量のデータを送ったとします。このとき、AIの計算はGPUと呼ばれる半導体を有するデータセンターで行われます。
しかし、データセンターAは計算するリソースがいっぱいで、私からの要求はある時点から、こなせない状態となってしまいました。そこで、残りの計算はデータセンターBで行うことにし、計算が終わったら2つのデータセンターの結果をまとめることにします。
以上は、私とデータセンターA、データセンターBという3つの拠点間で、APNによってデータのやり取りをしたということになります。これが決まった拠点間をつないでいる光ファイバーと、すべてが光での通信となるAPNとの違いです。
また、時間の面でも自由、柔軟というのは、AIデータセンターとのやり取りであれば電気料金の安い時間帯に計算をしてもらいリソース配置を最適化する、という場合が当てはまります。
なお、すべてを光の通信にするとはどういうことなのか、物理的な側面から見ると、APNでは「トランシーバー」「クロスコネクト」「アンプ」の3つのデバイスを使います。
トランシーバーは電気信号・光信号間の変換を行うデバイス、クロスコネクトは光の伝送先を振り分けるデバイス、アンプは増幅器のことで長距離・大容量の通信を可能にするものです。
すべてが光になると何が変わるのか?
生成AIの話が出たので、この点でのメリットにも触れたいと思います。
さまざまな企業が生成AIを活用する一方、データの取り扱いについて神経を尖らせているケースもあるのではないでしょうか。たとえば、機微に触れるデータは生成AIに入力しないように、といったルールを設けている企業があると聞きます。
企業間の競争で優位を保てる情報を外部に出したくないというのは、経営陣や企業内の責任者が持つ心理として当然のものでしょう。一方で、生成AIの使い方を限定することにより、効率が悪くなることも考えられます。そうなると、同じく企業間の競争で差をつけられてしまうことも起こりそうです。
IOWNによって、こうした生成AIの長所はより良くすることができ、不安は打ち消すことが可能となります。
長所は、先程も申し上げたように分散して計算を行うことができる点が挙げられます。IOWNにより、計算のスピードや消費電力の最適化が可能です。
また、分散して計算ができるということは、データの持ち主はデータを保持したまま、エッジ・クラウドの側で計算を行えるようにもなります。つまり、大規模言語モデル(LLM)の仕組みを利用しつつ、計算自体はエッジ・クラウドで行い、データをまるごと渡す必要がなくなるのです。
これが、IOWNで生成AIに関する不安を打ち消せる点となります。
なお、IOWNがネットワークを利用する人々やネットワークそのものにもたらすメリットは、他にもあります。従来の電気信号によるネットワークで使うデバイスは、寿命に限りがありました。それと比べると、光のデバイスは寿命がかなり長いのです。
ここまで何度か触れた光ファイバーも、一度、敷設されたものが長年、使われています。そうであるにもかかわらず、どんどん速くなる通信環境にも、対応できています。
こうした光のデバイスの中でも、エンド部分のトランシーバーだけは増速などの性能向上にあわせて数年程度で更新が必要となる可能性がありますが、他のデバイスはもっと長い期間、使い続けるのが可能です。そうなると、ネットワークのトータルコストを下げていくことにもつながります。
幅広い分野での活用が見込まれるIOWN
ここまで述べたように、APN、そしてIOWNは、超高速の通信を実現することで、オンライン会議のリアリティが向上したりアップロード・ダウンロードが時間というものを感じさせないレベルのスピードで行えたりします。
また、先進技術、ディープテックと呼ばれる分野での活用も期待できます。たとえば、量子コンピューターにIOWNのネットワークを接続し、非常に高度な計算を実行できるようになるでしょう。さらに、ピコ秒(1兆分の1秒)レベルの時刻同期も可能です。
エンターテインメントの世界での活用も、想定しています。
現在、テレビのスポーツ中継では現場に中継車を派遣します。中継車の中では、テレビ局のスタッフが局へ伝送する映像を選んでいます。現場にある数十台のカメラが撮ったすべての映像を局へ送るのは、回線の容量から困難となってしまうのです。
しかし、IOWNで超大容量のデータをすぐに伝送できれば、中継車を必要としないスポーツ中継が実現可能です。局にいるスタッフが送出する映像を決める、あるいは、視聴者が観たい映像を自由に決めることができます。
また、音楽のコンサートやライブで生じる音のずれを、IOWNで修正することもできるでしょう。音のスピードは、さほど速くありません。広い会場だと、たとえば最後方の席にいる人はステージ近くの人と比べて、音が届くのが遅い場合があります。
これをIOWNによって、どの席にいてもステージ上の人の動きと音のずれがない状態にできます。
すべてのステークホルダーの力でIOWNは成立する
冒頭で述べた通り7月31日、「IOWN におけるAll Photonics Network の最新研究開発動向」というテーマで講演を行います。ユースケースや技術について、まだお話していないことがたくさんあります。
それを、業種を問わずさまざまな方に聞いていただきたいです。IOWNは、NTTだけで成り立つものではないからです。システムベンダーさんからデバイスのパーツをつくるメーカーさんまで、さまざまな方々の力があってこそ、IOWNの理想とする社会が構築できます。
通信でより良い社会をつくりたいと考えるすべての人に、講演にお越しいただければと思います。
◆セミナー情報◆ ※講演は終了しました
<FOE-7>2025年07月31日(木)|15:45 ~16:30
講演テーマ:IOWN におけるAll Photonics Network の最新研究開発動向
NTT(株)未来ねっと研究所 フロンティアコミュニケーション研究部 部長・主席研究員 高杉 耕一
COMNEXT(コムネクスト)とは
COMNEXT(コムネクスト)とは、光通信技術、高周波技術、ネットワーク設備・配線施工、ローカル5Gなどの次世代通信技術・ソリューションに特化した専門展示会です。最新技術の実機デモや製品が多数展示され、世界中から情報を求める来場者が集まる国際商談展です。
併催セミナーでは業界のキーマンによる講演を多数開催します。(2025年は55本の講演を実施)業界の最新動向や研究開発の現状、各社の取組み事例を紹介しています。
展示会名
COMNEXT 第4回[次世代]通信技術&ソリューション展
【出展検討の方】
簡単1分で資料請求できます!