リアルタイム制御とは何か|スマートファクトリーで重要性が高まる理由と実現技術


はじめに

スマートファクトリーでは、設備の制御や搬送ロボットの運用をネットワーク経由で行う場面が増えています。こうした仕組みを安定して動かすうえで欠かせないのが、通信の遅れを極限まで抑えるリアルタイム制御の考え方です。もし通信に遅延が生じれば、映像と操作のズレや搬送ロボットの急停止といった深刻な問題につながります。

低遅延通信は、単に速度が速い回線を選べば済む話ではありません。制御・映像・操作インターフェースを含む構成全体の設計が求められます。本記事では、遅延が現場に及ぼす影響から、TSNや5G URLLCといった技術体系、さらに構成設計の考え方までを順を追って紹介します。

【展示会情報】

第1回 リモートオペレーションEXPO
会期:2026年12月2日(水)~12月4日(金) 会場:東京ビッグサイト


リアルタイム制御の定義と前提

スマートファクトリーにおける制御の要件

リアルタイム制御とは、あらかじめ決められた時間の枠内で確実にデータを届け、設備を動かす仕組みを指します。スマートファクトリーでは、生産設備の動作指令や予防保全に必要なデータを同じネットワーク上でやり取りするため、情報通信とリアルタイム性が求められる制御通信の混在を可能とする高速かつ大容量のネットワークが必要です(参照*1)。

ここでいう「リアルタイム性」とは、単純にデータが速く届くことだけを意味しません。決められた周期ごとに、決められた範囲内の遅延でデータが届き続けることが必要です。たとえばモーター制御では数百マイクロ秒単位の周期が求められる場合があり、この周期を逸脱するとラインの同期が崩れます。スマートファクトリーの制御通信では、速度だけでなく「時間の確実さ」が設計の前提になります。

遅延・ジッタ・パケットロスの基本

リアルタイム制御の品質を左右する3つの指標が、遅延・ジッタ・パケットロスです。遅延はデータが送信元から受信先に届くまでの時間、ジッタはその遅延のばらつき、パケットロスはデータが途中で失われる割合を示します。IEEE 802.1 TSN規格群は、これら3つの指標を制御するために設計されており、保証された遅延上限、低いパケット遅延変動、低いパケット損失率を備えた確定的な接続を提供することを目指しています(参照*2)。

ジッタの問題は無線環境で顕著になります。電波帯域の混雑や干渉によってジッタが発生し、ジッタへの制約が厳しい制御層への無線導入は困難でした(参照*3)。遅延の絶対値だけでなく、ばらつきと欠落の3要素をセットで考えることが、リアルタイム制御における通信設計の出発点となります。


遅延が現場に与える影響

映像・操作・制御のズレが招く問題

遠隔操作では、現場のカメラ映像を見ながらオペレーターが機器を操作します。このとき映像と操作指令の間に遅延のズレが生じると、操作の正確さが大幅に低下します。香川大学と株式会社STNetの研究グループによる実証では、映像解像度を制限した条件下でおよそ100msの遅延を実現でき、フルHD解像度でも許容される最大遅延300msを達成できることが示されました(参照*4)。

300msを超える遅延が発生すると、映像と操作の間にオペレーターが体感できるほどのズレが生まれ、安全かつ正確な作業が難しくなります。映像伝送では、株式会社Solitonが独自のネットワーク手順を用いて100ms以下の超短遅延を実現する仕組みを開発しています(参照*5)。映像・操作・制御の3つの経路それぞれで遅延上限を把握し、全体としてオペレーターの操作感を損なわない範囲に収めることが設計上の要点です。

遠隔制御・搬送ロボット運用での実例

遅延の影響が端的に表れるのが、工場内を自律走行する搬送ロボット(AMR)の運用です。通信遅延が発生するとAMRの走行精度が低下し、急停止のリスクが高まります。特に複数台を同時に運用する場面では多数の通信が同時に発生し、広い工場では複数のアクセスポイントが必要になります。AMRが移動してアクセスポイントが切り替わるとき、一般的なWi-Fiでは1秒未満の遅延が発生しやすく、これがAMRの急停止の要因になることがあります(参照*6)。

遠隔操作の領域でも、低遅延通信の実用事例が出てきています。docomoは、MEC(モバイルエッジコンピューティング)を活用し、安全で操作性の高い掘削機の長距離遠隔操作を実現しています(参照*7)。こうした実例を見ると、低遅延通信は理論上の性能指標にとどまらず、現場の安全性と稼働率に直結する要素であることが分かります。


低遅延通信を支える技術体系

TSNによる確定的遅延保証

時間制約ネットワーキング(Time-Sensitive Networking:TSN)は、イーサネット上で遅延を確定的に保証するための規格群です。スケジュール送信(IEEE 802.1Qbv)やフレーム優先割込み(IEEE 802.3brおよびIEEE 802.1Qbu)といった技術を組み合わせることで、重要なデータの遅延上限を保証します(参照*8)。

産業ネットワークの実装としては、CC-Link IE TSNがサイクリック通信でリアルタイム性を保証した制御を行いながら、ITシステムとの情報通信を混在できるネットワークとして設計されています。多様な機器を使った柔軟なシステム構築が可能で、工場全体のIIoT基盤に向けた仕組みを備えています(参照*1)。TSNの特徴は「最大遅延の上限値をネットワーク側で保証する」点にあり、これが制御通信に必要な時間の確実さを支えています。

5G URLLCとローカル5Gの役割

5Gの通信仕様には、超高信頼・低遅延通信(Ultra-Reliable Low Latency Communication:URLLC)が含まれています。docomoによる静止試験では、通信距離が約0.33kmの地点および約0.8kmの地点において、上りと下りの両方で200バイトのパケットを無線区間遅延1ms以下で伝送しつつ、99.999%以上のパケット受信成功確率を達成できたと報告されています(参照*9)。

さらに、5GとTSNの統合も進んでいます。5G仮想ブリッジがTSNブリッジとして振る舞い、スケジュール送信(802.1Qbv)に準じた時間制御パケット送信を行うことで、TSN側の確定的遅延とQoSの整合性を確保できます(参照*10)。有線のTSNと無線の5Gが連携することで、工場内の配線が困難な領域でもリアルタイム制御の品質を維持できる構成が見えてきています。

OPC UA FXによるフィールド統合

低遅延通信を工場のフィールドレベルまで一貫して適用するための取り組みとして、OPC UA FX(Field eXchange)が挙げられます。OPC Foundationが推進するFLCイニシアティブは、OPC UAをフィールドレベルまで拡張し、リアルタイム通信、機能安全、モーション制御、リモートI/Oなど産業オートメーションの多様な要件に対応するために発足しました(参照*11)。

2025年のHannover Messeでは、OPC UA FXがTSN・5G・APLとシームレスに統合され、安全かつリアルタイムな産業通信を可能にする姿が示されました。コントローラ間の確定的通信やシステム統合の簡素化が実演されています(参照*12)。OPC UA FXは上位のITシステムからフィールド機器までを共通の枠組みでつなぐため、通信規格が乱立する現場でも統一的なリアルタイム制御の土台として機能します。


構成全体で考える設計指針

通信・制御・映像を統合する構成設計

低遅延通信の導入効果を最大化するには、通信回線単体ではなく、制御系・映像系・操作系を含むシステム全体の構成設計が必要です。ローカル5Gを用いた遠隔操作の実証では、ローカル5Gの適用による遅延増加が全体遅延の5〜25%程度に抑えられ、遅延のばらつきも有線と同水準まで低減できることが明らかになりました(参照*4)。

映像伝送においても、複数のネットワーク回線を束ねて冗長的にデータを送信するマルチリンク機能と誤り訂正を組み合わせることで、遠隔操縦や遠隔監視に必要な安定性を確保する仕組みがあります。各種アラート通知機能により、状況監視と安全確保の両立を目指す構成です(参照*5)。通信・制御・映像のどこか1つだけを低遅延にしても、ほかの経路がボトルネックになれば全体の品質は低下するため、構成単位での遅延設計が求められます。

無線導入時の環境要因と対策

工場内に無線通信を導入する際は、製造現場に特有の電波環境の変動要因を把握しておく必要があります。経済産業省所管のNEDOは、無線環境が変化しやすいことや内外の設備に起因するノイズが発生することなどを変動要因として挙げ、自社の工場で発生する可能性を事前に想定するよう求めています(参照*13)。

同じくNEDOの資料では、工場稼働の有無によって電波環境が異なるため、事前に稼働状態で1週間程度の電波調査を行うことが望ましいとしています。さらに、工場内で他の無線通信を利用している場合はそれらの周波数や利用時間帯を整理し、工場全体の電波利用状況を台帳などで管理することが有効です(参照*13)。無線による低遅延通信の性能は、設置後の環境変化によって大きく左右されるため、導入前の電波環境調査と継続的な管理が欠かせません。

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第1回 リモートオペレーションEXPO
会期:2026年12月2日(水)~12月4日(金) 会場:東京ビッグサイト


技術・製品の比較と選定基準

有線TSNと無線5Gの使い分け

有線のTSNと無線の5Gは、それぞれ得意とする領域が異なります。TSNはイーサネットベースの有線環境で遅延上限を確定的に保証でき、ジッタの制約が厳しい制御層に適しています。一方、5G URLLCは配線が難しい場所や移動体への適用に強みを持ち、無線区間でも1ms以下の遅延と99.999%以上の受信成功率が報告されています。

CC-Link IE TSNのネットワークに無線機器を導入するための推奨無線機器試験制度も整備されています。この試験では、無線ネットワークで発生する混信などによる通信の不安定さや伝送遅延時間の変動などの恐れがなく、産業用途で安心して使用できる無線通信機器を推奨品として認定しています(参照*3)。有線と無線を二者択一で選ぶのではなく、制御層の要件や設置環境に応じて使い分け、必要に応じて組み合わせる判断が求められます。

導入時の失敗例と注意点

低遅延通信の導入で見落とされやすいのが、事前の電波環境調査の不足です。AMR運用の現場では、導入前に電波環境調査を実施して通信状況を事前に把握すること、通信環境の整備や電波干渉対策を行うこと、通信障害に備えたフェールセーフ機能の確認を徹底すること、そしてローカル5Gなどを活用して安定した通信環境を確保することが推奨されています(参照*6)。

NEDOも、工場稼働中の状態で電波調査を行わなかった場合、稼働時のノイズや干渉を見落とすリスクを指摘しています。通信機器のカタログ値だけを信頼して設計すると、実環境で期待した遅延水準を満たせないケースが生まれます。導入前の実地調査と、稼働後の継続的なモニタリングが、低遅延通信の性能を現場で維持するための前提条件です。


関連製品の紹介

低遅延通信やリアルタイム制御に関連する製品は、カタログやWebの情報だけでは通信の安定性や機器同士の相性を判断しにくい領域です。過去の展示会では、以下のような製品が出展されています。

株式会社マグナ・ワイヤレス
超低遅延通信端末AU-700-W-UE

自社開発半導体を用いて超低遅延、高信頼無線通信を実現することに成功しました。AU-700-W-UEは、Ethernetインターフェースを実装し、PLCの無線モジュールとして使用できます。 従来の無線通信システムでは実現できなかったPLCの無線化、ロボット制御の無線化をAU-700UE-Wを用いることで実現することができ、柔軟でかつ高効率なFAシステムを構築できるようになります。(参照*14


アルプスアルパイン株式会社
5G通信ソリューション

車載向けとして高い信頼性を誇る5G通信モジュールを、ローカル5G市場向けの通信ユニット製品として提案します。長寿命・耐熱・耐湿・耐振など環境耐性に優れ、高い堅牢性を実現。屋外での使用やセンサーと連携することで、ローカルエリア内において5Gの特長である低遅延・同時多接続・高速通信を活かしたさまざまなデータ伝送が可能です。スマート工場や建設現場、物流、インフラ、農林水産、スマートシティなど幅広い産業分野でデータ活用による新たな付加価値の提供に貢献します。(参照*15

低遅延通信の製品は、単体のスペックだけでなく、制御機器や映像機器との組み合わせで性能が変わります。展示会では、こうした構成全体を実機で確認しながら複数の製品を横断的に比較できるため、導入検討の精度を高める場として活用できます。


おわりに

スマートファクトリーやリアルタイム制御は、通信・制御・映像など複数技術の組み合わせで成り立つ分野です。
そうした中で、自社の技術がどの構成の中で価値を発揮するのかを示す場として、展示会の活用が進んでいます。

リモートオペレーションEXPOは2026年12月に初開催予定です。

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第1回 リモートオペレーションEXPO
会期:2026年12月2日(水)~12月4日(金) 会場:東京ビッグサイト

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