IOWNで変わる製造業の遠隔オペレーション
仕組み・導入ポイントと最新事例
目次
製造業では、人手不足や熟練技能者の引退が進み、複数の工場を安定して稼働させることが難しくなっています。こうした状況のなかで、次世代通信基盤IOWNと、それを活用した遠隔オペレーションの仕組みが注目されています。
この記事では、IOWNの基本的な仕組みから、製造業の現場で進む遠隔AI外観検査やロボット遠隔操作の具体例、従来の通信手段との違い、さらに導入時に押さえておきたい注意点までを順に取り上げます。
IOWNとAPNの基本的な仕組み
IOWN構想の全体像と三つの技術要素
IOWNは光の技術を軸に、通信や計算処理のあり方を根本から変えようとする構想です。IOWN構想は主に三つの要素で構成されます。一つ目はネットワークだけでなく端末処理まで光化する「オールフォトニクス・ネットワーク(APN)」、二つ目はサイバー空間上でモノやヒト同士の高度かつリアルタイムなやり取りを可能にする「デジタルツインコンピューティング」、三つ目はそれらを含むさまざまなICT資源を効率的に配置する「コグニティブファウンデーション」です(参照*1)。
この三つを組み合わせることで、大量の映像データをリアルタイムに送りながら遠隔で工場設備を動かす、といった使い方が見えてきます。製造業の遠隔オペレーションにおいてとりわけ重要になるのが、一つ目のAPNです。
APNの大容量・低遅延・ゆらぎゼロを支える光技術
APNは通信ネットワークの全区間で光の波長を専有する通信サービスです。2023年3月にAPN IOWN1.0の提供が始まり、2024年12月には最大800Gbpsの通信サービスの提供も開始されました(参照*2)。
IOWN APNでは大容量かつ低遅延な光パスを、消費電力を抑えつつ届けます。これにより、映像をやり取りしながらのライブ配信、遠隔手術、そして工場DXなどへの活用が期待されています(参照*3)。製造業の遠隔オペレーションでは、映像の遅れやブレが品質判定や安全に直結します。ネットワーク遅延の時間変動がない、いわゆる「遅延ゆらぎゼロ」という特徴が、工場の遠隔制御において大きな意味を持ちます。
製造業が直面する課題とIOWNが求められる背景
複数工場の品質統一と遠隔管理ニーズの高まり
人手不足とあわせて深刻なのが、複数の拠点をまたいだ品質のばらつきです。製造業の現場では、熟練工の減少や製品バリエーションの増加に伴い、外観検査の高度化と効率化が急務となっています。特に複数工場を持つ企業では、各工場の検査品質のばらつきや人手に頼った運用の負荷が大きな課題です(参照*6)。
人による判断基準は経験や体調によってぶれやすく、工場ごとに差が生まれます。こうした背景から、離れた場所からでもリアルタイムに高精度な検査や制御ができる通信基盤が求められるようになりました。IOWNの大容量かつ低遅延な光通信は、この遠隔管理ニーズに応えうる技術として実証が進んでいます。
IOWN APNが実現する製造業の遠隔オペレーション
遠隔AI外観検査による品質管理の統一化
外観検査を離れた場所からAIで行う取り組みが実証されています。NTTと日東工業株式会社の共同実験では、約300km離れた関東のデータセンターと静岡県の掛川工場の間をIOWN APNで接続し、画像データおよびAI外観検査結果の伝送が実施されました(参照*6)。
この工場では1日1,000点を超えるパーツや製品の外観検査を行っています。画像認識AIを導入することで、目視確認の量が減り、検査員の負担を軽減することが可能です(参照*7)。
さらに、画像認識AIの仕組みとメモリ上のデータを直接ネットワークへ転送する技術を組み合わせた検査も行われました。その結果、業界標準要件である1設備あたり4fps、つまり250ミリ秒という短時間でのAI外観検査が、手元のローカル環境と同等の水準で実現できました(参照*8)。
遠隔操作型ロボットによる工場設備点検
工場の設備保全には定期的な点検が欠かせませんが、施設規模が大きいと多くの手間がかかります。高所での点検には転落の危険も伴います。こうした作業員の負担を減らすため、IOWN APNの高速かつ超低遅延で広帯域な通信を生かし、遠隔地からロボットを巡回させる仕組みと、リアルタイムな映像を使ったパイプの異常検知の仕組みが検証されました(参照*9)。
検証の結果、工場壁面上のパイプの亀裂をリアルタイムに検知し、劣化の兆候であるパイプの振動を精密に解析することに成功しています。遠隔オペレーションによる設備点検は、人が直接立ち入りにくい場所での作業における有力な選択肢です。
産業用ロボットの遠隔研修・遠隔ティーチング
産業用ロボットは導入後に動きを教え込む「ティーチング」という作業が必要ですが、この工程を遠隔化する実証が行われています。実証では、ロボット制御用パソコンを設置した調布市の拠点と、ロボットアームやコントローラーを設置した新宿区の拠点の間を、1波長あたり100Gbpsの大容量かつ遅延ゆらぎゼロのAPNで接続しました。その結果、オフライン環境と変わらない操作性で産業用ロボットを遠隔ティーチングできることが確認されています(参照*5)。
遅延にゆらぎがあると、指示と実際の動きにずれが生じ、精密なティーチングが困難になります。ロボットエンジニアが、リモートでもオフラインと同じ品質で作業できることは、人材配置の柔軟性を高めます。研修やティーチングの頻度が高い製造ラインほど、遠隔化による移動コスト削減の効果を見積もりやすくなります。
クラウド型PLCによる遠隔生産制御
PLC(プログラマブルロジックコントローラ)は工場の生産設備を制御する装置です。このPLCをクラウドに移す「クラウド型PLC」の実証も進んでいます。実験では、生産設備とクラウド型PLCの間に300kmの模擬環境を構築し、制御周期20ミリ秒以内で遠隔制御することに成功しました。これは、高速な制御を必要とする自動車産業の生産ラインにおける設備要件を満たしています(参照*8)。
このクラウド型PLCサービスの実装に向けては、サービスの内容や体制の具体化が進められており、2027年度以降の実用化が目指されています。従来は工場ごとに設置していた制御装置を集約できれば、ソフトウェア更新や障害対応の手間を一元化しやすくなります。自社の生産ラインの制御周期要件と照らし合わせて、クラウド化の適否を検討する材料になります。
産業用ネットワークとの融合:CC-Link IE TSN長距離通信の実証
製造業の制御ネットワークとして広く使われているCC-Link IE TSNとAPNを組み合わせた長距離通信の実証が行われています。CC-Link IE TSNを実装した産業用機器同士を、擬似的に構築された遠距離地点に配置し、APNを通じて最大1,600km離れた場所でリアルタイムに監視・制御することに成功しました。工場内で閉じていた制御ネットワークが、APNを介して数百kmから1,000km超の距離でも機能し得ることがわかりました(参照*2)。
複数工場を抱える企業であれば、既存の制御ネットワークの規格を変えずに遠隔接続できるかどうかは導入判断に直結します。自社の工場で採用しているネットワーク規格とAPNの接続要件を確認することが、検討の第一歩になります。
従来技術との比較と導入の判断基準
インターネット・ローカル5Gとの性能比較
ロボットの遠隔推論動作に関する実証データでは、同一拠点内(遅延0ミリ秒)で推論頻度が18.2回/秒、約600km離れたAPN経由(遅延6ミリ秒)で8.7回/秒、インターネット疑似環境(遅延40ミリ秒)で3.5回/秒という結果が出ています。インターネット疑似環境では動作のカクつきやタスク失敗が発生しました。この結果から、APN経由の通信環境は一般的なインターネット環境に比べて遅延を抑えやすく、遠隔推論を伴うロボット操作の安定性確保に有利であることがわかります。(参照*10)。
AI学習処理においても差が出ています。一般的なネットワーク接続での学習時間が約157分であるのに対し、IOWN APNでは約22分とおよそ7分の1の時間で完了しました(参照*1)。
一方、ローカル5Gは工場内の無線通信に強みがあり、工作機械ごとの消費電力量や加工進捗のデータを収集・分析して異常兆候を検出し、リアルタイムに制御指示をフィードバックするといった活用が想定されています(参照*11)。効率化を図る場合、工場内の無線接続にはローカル5G、拠点間の長距離低遅延接続にはIOWN APNと、使い分けることも考えられます。
導入コスト・適用条件・段階的アプローチ
IOWN APNの導入を検討する際は、自社の遠隔オペレーションに求められる遅延水準と帯域幅を具体的に数値で整理することが必要です。遅延が40ミリ秒に達するとロボットの動作に支障が出る一方、6ミリ秒であれば約600km離れた環境でも安定動作しています。まず自社の制御対象が許容できる遅延の上限を確認してください。
約600km離れた拠点を含む3拠点のGPUを活用した分散学習の実証では、ネットワーク遅延に対するチューニングを行った結果、手元のデータセンター環境と比較して約86.0%の処理能力を達成し、学習時間は約1.17倍に収まりました(参照*10)。
クラウド型PLCサービスは2027年度以降の実用化が目指されており、すべての用途が即座に商用利用できる段階ではありません。現時点では、外観検査や設備点検など比較的データ量の多い工程から小規模に試し、遅延や画質の要件を現場で確かめながら段階的に対象を広げるという進め方が考えられます。
導入時の注意点
ネットワーク以外の機器による遅延
IOWN APNの遠隔オペレーションを導入する際に見落としがちなのが、ネットワーク以外の機器による遅延です。設備点検の実証では、映像の遅延に関してAPNの伝送遅延よりも機器の処理遅延の影響が大きいことがわかりました。また、RDMA(メモリ間で直接データを転送する方式)による伝送は一般的なTCP伝送と比較してCPU負荷が6%軽減され、消費電力の抑制効果も確認されています(参照*9)。回線だけを高速化しても、カメラやエンコーダーなど周辺機器の処理能力が追いつかなければ全体の性能は頭打ちになるため、機器選定は慎重に行う必要があります。
もう一つ押さえておきたいのが、遅延と動作品質の関係です。ロボットの遠隔推論動作の検証では、推論頻度の低下はデータ伝送の遅延によるものであり、一定以下になると正常な動作が困難であることが判明しました。IOWN APN経由では約600km離れた環境でもロボットの推論動作が安定して実行できましたが、今後はロボット固有の要因も考慮しつつ、正常動作に必要な遅延のしきい値を見極めていく段階にあります(参照*10)。導入前に、対象とする作業ごとの遅延許容範囲を洗い出しておくことが、想定外の失敗を防ぐ手がかりになります。
関連製品の紹介
過去の展示会では、IOWNの遠隔オペレーションに関連する以下のような製品・技術が出展されています。
株式会社 精工技研
60GHz超 ミリ波A-RoF技術(参照*12)
A-RoFは、5Gミリ波や6G/IOWNにおける伝送技術としても注目されています。ブースでは、市場でも珍しい60GHz帯まで対応できるA-RoF技術が紹介します。
POTRON TECHNOLOGY
XGS/GPON Combo ONU SFP+(参照*13)
XGS/GPON Combo ONU SFP+ is in SFP+ package with a SC optical receptacle and operate over the commercial and industrial temperature , it applied a 1577nm CW mode downlink ADP/TIA receiver operating at 9.95328Gb/s and a 1270nm DFB burst mode uplink transmiter operating at 9.95328Gb/s.
実機で確認できる場として展示会は有効です。スペックシートだけでは分からない操作感や既存設備との接続性を、実際に触れながら比較できます。
おわりに
IOWNのAPNは、製造業の遠隔オペレーションにおいて大容量・低遅延・ゆらぎゼロという特性を生かし、外観検査の品質統一、設備点検の省人化、ロボットの遠隔ティーチング、クラウド型PLCによる生産制御といった領域で具体的な実証成果を出し始めています。
導入を検討する際は、自社の制御対象が求める遅延の上限値を明確にし、周辺機器の処理遅延も含めた総合的な性能評価を行うことが欠かせません。まずは影響範囲の小さい工程での試験的に導入から初めて、現場のデータをもとに対象範囲を広げていきましょう。
リモートオペレーションEXPOは2026年12月に初開催します。IOWN × 遠隔オペレーション × 製造業の活用ヒントにつながる展示・情報が見つけられるはずです。
関連技術をお持ちで出展を検討中の方は、まずは出展案内ページで概要や条件をご確認ください。
参照
● (*2) NTT – IOWN APNを活用した産業用ネットワークCC-Link IE TSNの長距離リアルタイム通信の実証に成功 ~遠隔地の産業用機器の高精度な監視・制御を実現~
● (*3) NTT – IOWN APNにおいて、任意の場所から、必要な時だけタイムリーにAPNに接続する基本技術実証に成功 | ニュースリリース | NTT
● (*4) https://www.mhlw.go.jp/content/000785594.pdf
● (*5) NTT – 三菱電機とNTT東日本 IOWNを活用した産業用ロボットの遠隔研修の実現性を実証
● (*6) プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES – IOWN APNと画像認識AIにより約300km離れた工場での外観検査に成功 | NTT西日本株式会社のプレスリリース
● (*8) INTERNET Watch – NTTと東芝、IOWN APNとクラウド型PLCにより、300km離れた拠点から生産設備の高速な遠隔制御に成功 – INTERNET Watch
● (*9) NTTデータグループ – IOWN APNを活用した遠隔操作型ロボットによる工場設備点検を検証 | NTTデータグループ – NTT DATA GROUP
● (*11) 富士電機 – ローカル5Gの商用免許を取得し自社工場への適用を開始 | 富士電機
● (*12) 60GHz超 ミリ波A-RoF技術
● (*13) XGS/GPON Combo ONU SFP+
