スマートファクトリーのリアルタイム制御とは?
IoT・AI活用の最前線


はじめに

スマートファクトリーでは、設備やセンサから得られるデータをもとに、生産ラインを即座に調整する仕組みが求められています。この仕組みの中核を担うのがリアルタイム制御です。もしリアルタイム制御の精度や応答速度が十分でなければ、品質のばらつきや設備の停止といった問題に直結します。

リアルタイム制御の実現には、通信技術やAI手法の選定と、導入時の判断基準の整理がポイントです。本記事では、産業用イーサネットやTSN、エッジコンピューティングなどの技術要素から、企業の具体的な取り組みまでを順を追って解説します。

【展示会情報】

第1回 リモートオペレーションEXPO
会期:2026年12月2日(水)~12月4日(金) 会場:東京ビッグサイト


リアルタイム制御の定義と背景

リアルタイム制御の基本概念

リアルタイム制御とは、あらかじめ定められた時間の制約の中で、確実にデータの送受信と処理を完了させる制御方式です。一般的なデータ通信では「できるだけ早く届けばよい」という考え方ですが、製造現場の制御では「決められた時間内に必ず届く」ことが前提になります。

PLCはこの代表的な装置で、高温・低温・振動といった過酷な環境下でも動作し、信頼性の高い通信を介して産業用オートメーションシステムの各部に高精度かつ確定的なリアルタイム制御を提供します(参照*1)。ここでいう「確定的」とは、通信の遅延時間がばらつかず一定の範囲に収まることを意味します。サーボモータの位置決めやロボットアームの動作など、ミリ秒単位の遅れが品質不良や事故につながる工程では、この確定性がなければ制御そのものが成立しません。

製造現場で求められる理由

製造業では生産設備の稼働状況をリアルタイムに把握し、異常があれば即座に対処することが欠かせません。国内外の工場を遠隔監視し、どこで何が起きているかを可視化するとともに、ロボットや自動判別システムの導入によって現場の自動化を進める取り組みが広がっています(参照*2)。

IIoT(産業用IoT)による機械とデバイスの接続は、トレンドからビジネスの標準的な手法へ移行しています。リアルタイムデータの監視によって最適化された運用を実現するこの考え方は、インダストリー4.0やスマート製造とも呼ばれます(参照*3)。製造現場でリアルタイム制御が求められるのは、単に速さの問題ではなく、品質・稼働率・安全性のすべてに影響するためです。導入を検討する際には、自社のどの工程に確定的な制御が必要かを棚卸しする作業から始めることになります。


リアルタイム制御を支える技術全体像

産業用イーサネットとTSNの役割

スマートファクトリーにおけるリアルタイム制御の通信基盤として、産業用イーサネットが幅広く採用されています。産業用イーサネットは近年普及が進み、高速化、接続距離の拡大、多数のノードとの接続機能が提供されるようになりました。EtherCAT、PROFINET、EtherNet/IP、Sercos III、CC-Linkなど、さまざまな産業用機器メーカによって異なるプロトコルが使用されています(参照*1)。

標準イーサネット上で確定的な通信を可能にする規格群がTSN(Time-Sensitive Networking)です。TSNはIEEE 802.1標準規格で定義されており、802.1AS、802.1Qbv、802.1CBといった規格を含みます。すべてのTSNデバイスがクロックを相互に同期させ、共通の時間基準を用いることで、一定の遅延制限内でのデータ伝送を保証します(参照*4)。自社の工場で使われている既存プロトコルとTSNの関係を把握することが、ネットワーク設計の出発点になります。

OPC UA TSNによるIT/OT統合

工場の制御系ネットワーク(OT)と情報系ネットワーク(IT)を統合する手段として、OPC UA TSNの標準化が進められています。OPC FoundationのFLC(Field Level Communications)イニシアチブは、OPC UAの枠組みを拡張し、異なるメーカのコントローラやフィールドデバイスの動作と意味情報を標準化することを目指しています。TSNをOPC UAに統合するにあたっては、OPC UA最新の進化であるPub/Sub通信モデルが不可欠であり、この方式は組み込みデバイスとの親和性が高く、小型の電子機器上でも性能を最適化できます(参照*5)。

PROFINET IRTはPROFINETの中でも最も高性能なクラスで、時間制約のある確定的なデータ伝送に対応します。サーボドライブやモーションコントロールシステムなど、リアルタイム通信が不可欠なアプリケーションに使用でき、製造装置やロボティクス、プロセス制御装置などへの適用が進んでいます(参照*6)。IT/OT統合の検討時には、対象工程が必要とする通信の確定性レベルを明確にし、適切なプロトコルを選ぶ作業が欠かせません。

ローカル5Gとエッジコンピューティング

有線ネットワークでカバーしきれない領域やレイアウト変更が頻繁な現場では、ローカル5G(5Gプライベートネットワーク)が有力な選択肢になります。5Gプライベートネットワークは、特定のエリア向けのワイヤレス接続を提供し、ネットワーク基盤に対するセキュリティ・信頼性・制御を強化します。産業オートメーションやスマートファクトリーなど低遅延・高速接続・超高信頼性が求められるアプリケーション向けに設計されています(参照*7)。

エッジコンピューティングはデータを発生源の近くで処理する仕組みで、リアルタイム分析が可能になります。現場にIT専門担当者を常駐させにくい工場にも適しており、物理的プロセスの検知・制御・ローカルプログラムの実行に加え、産業用コントローラや工場運用システム、クラウドとの通信も担います(参照*3)。ローカル5Gとエッジコンピューティングの組み合わせを検討する場合は、対象エリアの通信条件と処理負荷を洗い出してから設計に入ることが実務上の手順となります。


IoT・AIを活用した制御手法

センサデータ収集とフィードバック制御

リアルタイム制御の精度を高めるうえで、IoTセンサからのデータ収集とフィードバック制御の組み合わせが基本的な手法となります。三菱電機のMELIPCラインの旗艦コンピュータMI5000は、リアルタイム機器制御と高速データ収集・処理・診断・フィードバックを1台の機械に統合し、工場の床面積を節約しながらIIoTシステム構築のコストを削減します。開発にあたっては、リアルタイム制御と実証済みの分析・診断アプリケーションを柔軟に統合できるプラットフォームが必要とされました(参照*8)。

センサデータの収集からフィードバック制御までを1つの機器で完結させる構成は、配線や設置スペースの制約が厳しい現場で有効です。導入を検討する際は、既存のセンサ群との接続方式とデータ形式の互換性を事前に確認しておく作業が必要です。

 

 

条件ベース生産制御とAI最適化

スマートファクトリーにおけるリアルタイム制御の高度な応用として、条件ベースの生産制御があります。米国国立標準技術研究所(NIST)は、スマート製造における条件ベースのリアルタイム生産制御を提示しました。この手法は、生産システムの状態を自動的に評価し、スマート製品や部品の処理経路を動的に設定することでシステム性能を向上させます。機械の劣化状態は離散状態として定義され、マルコフ連鎖としてモデル化されます(参照*9)。

インダストリー4.0の実現技術であるIIoT、AI、デジタルツインは、この10年間で十分な技術成熟度に到達したことが明らかになっています。これらの技術は、より俊敏でモジュール化された効率的な運用を可能にします(参照*10)。条件ベース制御の導入を検討する場合は、まず設備ごとの劣化パターンを定量的に記録し、モデル化に必要なデータ量を見積もることが最初のステップになります。


導入の判断基準と注意点

プロトコル選定と相互運用性

リアルタイム制御を導入する際、最初に直面する判断が通信プロトコルの選定です。産業用イーサネットには複数のプロトコルが存在し、それぞれ対応するデバイスやベンダーが異なります。異なるメーカの機器を混在させる環境では、相互運用性の確保が最も手間のかかる工程です。

IIC(Industrial Internet Consortium)のテストベッドでは、IEEE 802.1 TSNに基づく単一のネットワーク上で、OPC Pub/SubおよびCIPなどの重要なトラフィックとベストエフォートのトラフィックを組み合わせ、リアルタイム能力とベンダー間の相互運用性を実証する取り組みが行われました。あわせて、TSNのセキュリティ上の価値を評価し、初期TSN機能の安全性についてフィードバックを提供することも目的としています(参照*11)。TSNはリソース管理や可視化のツールも提供しており、デバイスの提供元がネットワーク要件に応じて機能を組み込める設計です(参照*4)。プロトコル選定では、自社で使用するベンダーの対応状況を一覧化し、テストベッドの検証結果と照合する作業が有効です。

セキュリティとサイバーリスク

リアルタイム制御をネットワーク経由で行う以上、サイバー攻撃への備えは避けて通れません。制御系ネットワークが外部と接続される場面が増えるほど、攻撃の侵入経路も広がります。

独立行政法人情報処理推進機構(IPA)は、サイバー攻撃に関する重大な事案が生じた際に原因究明調査を行う体制を設立しました。この事故調査は再発防止を目的としており、調査結果を踏まえてサイバーセキュリティ水準の向上を図るための対策、たとえばガイドラインの見直しなどを講じることが期待されています(参照*12)。リアルタイム制御の導入時には、制御系と情報系の境界にどのような防御策を設けるかを設計段階で定義し、運用後も定期的に見直す体制を構築することが実務上の要件となります。

【展示会情報】

第1回 リモートオペレーションEXPO
会期:2026年12月2日(水)~12月4日(金) 会場:東京ビッグサイト


企業事例に学ぶ導入効果

三菱電機MELIPCのエッジ制御統合

三菱電機は、工場自動化における基本的な制御性能を実現するために、コンピュータの制御プラットフォームとしてVxWorksリアルタイムOSを採用しました。VxWorksはMI5000にリアルタイム機器制御とエッジコンピューティングの両方を1つの構成として提供します。高速CPU性能と高いリアルタイム性能を組み合わせることで、IoTデバイスからデータを収集しリアルタイムで管理でき、エッジコンピューティングのアプリケーションがデータ分析を迅速に処理します(参照*8)。

この事例が示すのは、リアルタイム制御とデータ分析を1台の機器に統合することで、設備点数と導入コストの両方を抑えられるという点です。エッジ制御の導入を検討する場合は、対象工程で必要なリアルタイム性能の水準と、分析処理に求められる計算能力を並行して見積もる作業が求められます。

TSN導入による工場ネットワーク刷新

産業機械の大手メーカでは、TSN技術を活用してCNCマシン(コンピュータ数値制御工作機械)の複数アプリケーションを統合・最適化した事例があります。TSNを導入することで、リモートI/Oカメラとマシンビジョンカメラのシームレスな統合が可能になり、正確なデータ伝送の確保とメンテナンス作業の削減を実現しました。このネットワーク刷新により、マシン制御のための確定的な通信と拡張性の向上が達成されています(参照*4)。

また、ルネサス エレクトロニクスは、産業ネットワーク対応MPU「RZ/T」および「RZ/N」シリーズ向けに、PROFINET IRTおよびPROFIdriveの認証済みソフトウェアスタックの提供を開始しました。第一弾として、サーボモータ制御アプリケーション向けの「RZ/T2M」と、リモートI/O機器や産業用イーサネットゲートウェイ向けの「RZ/N2L」に対応しています(参照*6)。TSNやPROFINET IRTによるネットワーク刷新を検討する際には、既存のフィールドデバイスが新しいプロトコルに対応できるかどうかを1台ずつ確認する作業が出発点となります。


関連製品の紹介

過去の展示会では、スマートファクトリーのリアルタイム制御に関連する以下のような製品・技術が出展されています

ASKEY COMPUTER CORP.
5G PN ONE-BOX SOLUTION(STANDARD / SLIM)(参照*7
Askey 5G プライベートネットワーク ・総所有コストの削減 ・簡単な導入と管理 ・優れたパフォーマンスと高いセキュリティー 5G プライベートネットワークは、独自の機能を提供し、特定のエリア向けのワイヤレス接続、ネットワークインフラストラクチャーに対するセキュリティ、信頼性、および制御の強化を実現します。産業オートメーション、スマートファクトリー、重要なアプリケーションに合わせて設計され、低遅延、高速接続、超高信頼性を提供します。


ASKEY COMPUTER CORP.
5G SUB-6 INDOOR(屋内型)/OUTDOOR(屋外型) SMALL CELL(参照*13
エンタープライズレベルの5G-NR を満たすN48、N77、およびN78 の3つ異なる機種を備えた。6GHz 以下のN78/N79 帯域の屋内および屋外ネットワークカバレッジにより、優れたキャリアグレードの高性能ネットワークアクセス体験をお届けします。 5G SUB-6 屋内/屋外用スモールセルは、産業オートメーション、スマートファクトリー、クリティカルインフラ、ミッションクリティカル アプリケーションなど、低遅延、高速接続、超高信頼性が要求される汎用アプリケーションに活用されています。組織固有の要件を満たすようにカスタマイズおよび最適化されただけでなく、ネットワークインフラストラクチャー上で使いやすい制御インターフェースを提供します。

このように、通信基盤やネットワーク機器など、リアルタイム制御の構成要素を実機で確認できる場として展示会は有効です。スペックシートだけでは分からない操作感や既存設備との接続性を、実際に触れながら比較できます。


おわりに

スマートファクトリーにおけるリアルタイム制御は、通信プロトコル、エッジコンピューティング、AI活用、セキュリティといった複数の要素が密接に絡み合う領域です。Webやカタログの情報だけでは、自社の工程に最適な組み合わせを判断しにくい分野でもあります。

展示会は、これらの技術を横断的に比較しながら、導入後の運用イメージまで確認できる場です。自社の製品や技術がスマートファクトリー分野でどのように評価されるかを確かめたい方は、出展募集資料をご覧ください。

スマートファクトリー × リアルタイム制御に関するIoTやセンサーを活用した自動化・監視、効率化の最新事例や導入のヒントは、リモートオペレーションEXPOの出展案内でご確認ください。
リモートオペレーションEXPOは2026年12月に初開催します。活用ヒントにつながる展示・情報が見つけられるはずです。
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【展示会情報】

第1回 リモートオペレーションEXPO
会期:2026年12月2日(水)~12月4日(金) 会場:東京ビッグサイト